国際交流

 報告  2025.11.7

ベトナム・ハノイ医科大学代表団が高度救命救急センター・横浜消防司令センターを見学しました



2025年11月5日1公立大学法人横浜市立大学は、ベトナムのハノイ医科大学(Hanoi Medical University、学長 Prof. Nguyen Huu Tu, M.D., Ph.D.)と、遠隔医療・救急医療・脳外科領域を中心に、人材・研究交流等を推進することを目的としたMOU(Memorandum of Understanding:覚書)を締結しました。本MOUにより、医療分野における国際的な連携がさらに強化されます。
両大学は、本学教員がハノイ医科大学への訪問・視察を契機に、日越の医療関係者による交流機会の創出を目的とした調査研究を実施し、関係を築いてきました。
本MOUは、本学の医療分野における研究活動の国際展開及び連携強化に資するものであり、大学間の組織的な協力と人材交流を通じて、両大学の発展と国際医療の向上に貢献していきます。
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この連携推進の一事業として、当教室の救急診療を訪問されるということで、救急医学教室として、今回ベトナム・ハノイ大学代表団の市民総合医療センター高度救急救命センターの視察と横浜消防司令センターの視察を行いました。
以下専攻医・古川医師から報告です。


ベトナムのハノイ医科大学からいらした先生方のアテンドをさせて頂く機会を頂きました。
今回はJapan Vietnam Health Bridge(JVHD)という本学麻酔科の先生がベンチャーを起業し行っている遠隔ICUプロジェクトの医療人材交流の訪問でした。
私自身、海外が身近な環境で育ち、国際医療福祉大学を卒業したのも国際的に働きたいが故で、学生時代の臨床実習も1ヶ月はベトナムで行いました。
今回竹内教授が取り計らいで、横浜市立大学救急医学教室としての国際的な取り組みに携わらせて頂きました。
海外の医療事情を知り、どんな国際協力が今後出来るのか、どんな人がいるのか知見を広めることができ心躍る充実した1日となりました。

ーー午前ーー

救急外科Acute Care Surgery、REACTの説明
市大センター病院の見学(センターカー、初療室、EICU、ヘリポート)
南消防署 救急車、消防車の見学

 
 

ーー午後ーー

横浜市消防本部の見学
(特別高度救助部隊SR、司令センター)
懇親会@桜木町

 
 

ベトナムにはREBOAはないそうで興味を持たれていました。また、保険制度の違いもありますが、救急システムも未発達で、重症患者が自家用車でwalk inで来るため現場は混沌としていると仰ってました。
救命士養成の制度や救急車の配備を国をあげて行っており参考にしたいと仰ってました。
また、今回実際に司令センターを見学し、消防の方に直接お話を伺うことができました。
自身の初期研修は他県で行っていたため、4月は応需の際に困惑もありましたが、YMATや様々なプロトコル、指導医など整った横浜の救急システムに改めて感動しました。専攻医としても普段と違う視点から学ぶことができ非常に勉強になりました。
視察団は、五日間で様々な施設を見学するハードな日程の中、多くを吸収しようと日本の医療についてたくさん質問頂き嬉しく思いました。
日本は人口減少や安全整備により事故が減る中、ベトナムは人口増加に伴いバイク事故など患者も増えており多くの症例数経験を積むにはwin-winとのことです。
同時期にベトナム現地を視察された先生のお話も楽しみです。今回このような機会に恵まれ、入局して良かったと感じました。今後も国際交流の機会があれば是非積極的に参加させて頂きたく思います。


当教室では、ベトナム・ハノイ医科大学現地への訪問も行っており、現地の救急医療体制・外傷診療に対する視察も行っており、先日現地視察にセンター病院外科グループ藤平医師が現地を訪れてきまして。
以下藤平医師より報告です。


 ベトナム医療視察レポート

「グローバルサウス未来志向型共創等事業」の一環として、“遠隔ICUシステムによる海外での遠隔救急・集中治療体制の構築”を目指す取り組みが進行中です。
今回はこの取り組みへの視察として、私は附属病院の麻酔科・脳外科の先生方やICU看護師さんたちとともにベトナムの3つの病院を訪問しました。
訪問した病院で現地の医療体制に触れながら、遠隔システムやリモート医療の将来的な可能性を考察すると同時に、私は個人的なミッションとして「交通外傷の多いベトナムで、短期間で日本ACS(救命外科医)が実臨床経験を積む意義」に焦点を当てました。以下より、3病院についての詳細な視察レポートをお届けします。


ベトナムの街の様子

ハノイの交通事情はまさに混沌そのもので、125ccのスクーターが市民の主な移動手段となっています。
ノーヘル禁止のルールはあるものの施行は緩く、携帯電話を使用しながらの運転や複数人乗りも一般的。
交通事故が頻発する状況下でも、搬送される外傷件数は思いのほか少数に留まるとのことでした。これは、事故の深刻度が低い場合には病院に運ばれない現状や搬送体制の不足によるものと考えられます。
ベトナムの救急医療体制には多くの課題があり、心停止患者が自力で病院に向かわなければならないケースもあるとのことでした。
交通外傷が多い環境でありながら、搬送機能や医療資源が追いついていない実態が浮き彫りになりました。
その中でも、ハノイ医科大学病院など現地医療機関には急速な対応が迫られる様子が見て取れました。


視察病院レポート

 ① ハノイ医科大学病院

ハノイ医科大学病院は、ERが完全に飽和状態で患者数が1日350人に達するといいます。搬送は家族によるものがほとんどで、医療従事者の不足が深刻であることが一目瞭然でした。医療機器は整備されている一方で、運用面では人手不足により主に腹部外傷の際には開腹手術が多く行われている状況が垣間見えました。
また、過密な状況の中でも、患者を治療室に振り分けるトリアージや院内での電子デバイス活用には努力を感じました。
ただし、日本のような精密な事前準備や緊急対応は難しい状況です。ハノイ医科大学病院の現場からは、医療現場の混沌の中にも熱意を感じました。

 

② ハノイ医科大学ICUセンター

ICUセンターは、コロナ禍に仮設で造られた施設がそのまま現在も機能している平屋建ての病院です。外科系患者こそ少ないものの、内科患者の受け皿として救急年間約4000件を担当。人工呼吸器やECMOなどの装置も整備されていましたが、人員不足や衛生面の課題が目立ち、感染症対策が大きな課題となっていました。そして、ここでも患者家族がケアをする姿が一般的であり、そのための混雑や感染リスクも顕著でした。


③ バクマイ病院

バクマイ病院はベトナム最大のマンモス病院であり、3600床を有する総合病院です。医療機器は日本と同レベル、むしろ最新設備が導入されている場面もありました。ただし人員不足という課題が依然として病院全体に広がっており、ERも飽和状態でした。
ストレッチャーで待機する患者が多数おり、診療科への引き取りまで時間を要するシステムの中で、医療従事者たちが必死に奮闘している姿が印象的でした。混沌という言葉では片付けられないほどの苦境の中でも、現場に根付く熱意と執念を感じさせる場面が数多くありました。


暗中に見つけた光――ベトナム医療の熱量

今回の視察で見たベトナムのERや救急医療体制は、日本の医療と比べても物資や設備面では遜色なく、むしろ進んでいる点も少なくありません。
しかし、医療現場の人員不足や感染症対策などの課題が顕著であることが分かりました。そして何より感じたのは、「混沌の中でも救う理由を見出し、前進し続ける」現場の熱量です。
日本の医療は整いすぎた環境によって、熱意や情熱が薄れがちな面があるかもしれません。ベトナムの医療現場で感じた“混沌の中で笑い合いながら救う”精神は、救命外科を支える根源的な価値だと感じました。


今後の展望

遠隔ICUシステムの未来を描くプロジェクトの中で、ベトナムの救急・集中治療の現場を肌で感じ、その中で“現場の人”の重要性を再認識しました。
テクノロジーの進化がいかにあろうとも、救命外科医としての原点である「手術で誰かを助けたい」という情熱は不変です。この視察で得た“混沌の熱”を、これからの医療に還元していきたいと思います。
救命医療の新たなカタチを模索しつつ、異国での経験を日々の実践に活かしてまいります。


当教室は国際交流も積極的に行なっており、海外からの学生の受け入れも行なっています。
医学生のみならず、他学部との国際交流をこれからも継続していきます。
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