学術報告 2024.4.27
EuroELSO2024参加報告
2024/4/23-27までの会期で、ポーランドはクラクフにて、Euro ELSO2024が開催されました。
Euro ELSOは、ヨーロッパにおけるECMOの学会です。今回が第12回目であり、1500人程度の規模になります。Euro ELSOは、ELSO(30年前に発足、北米中心)のヨーロッパ支部ですが、VV-ECMOでは、EOLIAstudyや、CESARtrial、そしてECPRではPrague study、INCEPTION tiralなどヨーロッパからであり、Euro ELSOの方が人気があります。
今回、広島大学の志馬先生らにAMEDの分担研究者として参画させていただき、CIRISIS(日本のCOVID19データベース)を用いて、日本におけるECMO中の出血性合併症についてその特徴と死亡に関する検討をしましたので報告して参りました。
発表はe-posterであり、日本と同じようにプレゼンテーションを行い、質疑応答でした。緊張はありましたが、Euro ELSOは英語圏でない参加者もおり、流暢な英語ではなくても許容され、Japanese Englishで、そして大きな声で発表しました。
内容の詳細は割愛しますが、国ごとに人種、患者背景、使用するECMOデバイス、ECMO管理方法などが異なり、多くの因子が関係するECMOにおいては、国ごとにその特徴を知り、対策を持つことが大事かと思いました。
ECMO中の出血合併症には、vWFが関係しているとされています。ECMO中にvWFが消耗され、後天的VWF欠乏に至るからです。またvWFの血中濃度は実は血液型に関係するとされ、O型には少ないとされます。ECMOの有用性はコロナや最近のECPRのstudy等で今まで以上に認識されてきましたが、出血合併症が死亡に関する一番のリスクファクターですので、これをコントロールする術を見出すことがさらなるECMOの有用性に向上につながるものと考えています。
さて肝心の学会での知見ですが、以下に概略をまとめます。
今回はECPR推しの学会でした。
- 呼吸ECMO
今回は特に目立ったトピックはなく、セッションも少なく、COVIDの終わりととも下火になっていました。かなり残念でした。 - ECPR
ARREST、Prague、INCEPTIONと大きなECPRに関するRCTが行われましたが、そのfirst authorたちがプレゼンをしておりました。
ただ結論は、ECPRで助かる人は20-40%程度であり、蘇生率を上げるためには、1)地域のシステムをいかにうまくコントロールするか、
2)患者選択をどうするかであると述べており、地域・国ごとに戦略を練るしかないと感じました。ただ欧米では病院到着まで60分かかるのが
一般的であり、病着が早ければ30分の日本においては、それこそpre-hospital ECPRなどを組み合わせれば、欧米の蘇生率を超える結果が得られるのでは
ないかと思い、日本?横浜?からの発表を目指したいと思いました。またECPRをして助からない場合でも、その24%が臓器提供ドナーになり得るため、ECPRの意義は大きいとの発表されておりました。donation after cardiac death:DCDという考え方です。日本でもECMO界隈ではこの話が出ていますが、その進みは遅いようです。その他としては、自己調整型の拍動流ECMO(controlled reperfusion of whole body :CARL)が欧州では発売されましたが、まだまもないためそのエビデンスや使用上の工夫などが発表され、会場を盛り上げていました。https://resuscitec.de/de/業者に日本でも使えないかと聞きましたが、米国でも販売もまだまだであり、日本はかなり先になりそうです。テルモなど国産メーカーに期待するところです。 - ECMOシミュレーション
ECMOのシミュレーションに関するセッションがいくつかありました。
ただ、欧州においては、シミュレーションは看護師やMEが主導で行う感じであり、医師の介入は少なさそうでした。
そして手前ミソですが、日本で行われているシミュレーションは欧州に劣るものではなく、自信を持っていいものだと認識し、
今後も更なる改良を加えていこうと思いました。またECPRのカニュレーションのタイムトライアルがあり、フランスのSAMUチームなどが目立っていました(シミュレーションでもカットダウンでした!!)。これは挿入のスキルだけでなく、チームダイナミクスなども大事なファクターであり、ぜひ今後センター病院でも、さらには関連施設交えてのタイムトライアルも行ってみたいと思いました。
ELSOでは、自分が読んだ論文の著者らが目の前におり、彼らがまた次の研究を進めているところを目の当たりにすると、そのアクティビティの高さに感銘を受けました。そして、逆に彼らがまだ注目していない点、自分としては肺エコーやrSO2については出し抜くチャンスがあるとも思いました。また今回はECPRがメインでありましたが、世界を真似るのではなく、日本オリジナル試みであっても十分通用すると感じましたので、Think globally, Act locallyの気持ちで、論文を読んでるだけでなく、彼らができていないことを
せひ横浜でやっていくを目指すべきかと思いました。
またポーランドのクラクフですが、学会がなければ行くことがなかったと思いますが、アウシュビッツ収容所がある街としても有名であり渡欧にあたり色々勉強しました(ただ自分霊感が強くアウシュビッツには行けませんでした)。島国日本と違い、地続きの国は国を維持することも大変であるのだなと学びました。物価は、昨今の欧米では珍しく日本と似たような感じでしたが、ポーランドは活気があり経済成長もしているようで、あっという間に日本を追い越しそうです。最近海外に行くといつも思いますが、日本はこのままでいいのかと考えてしまう旅でした。